私の友人Ebiちゃんは、姐御肌の女優である。「最近全然連絡くれないじゃん。たまにゃ東京へ来なよ。」
彼女からの芝居の案内はいつもこんな調子だ。
新宿ヨドバシカメラの裏手、地下一階にあるBARでの朗読劇だった。
何人か交代で本を読んでいくのだが、私はすぐに眠くなってしまった。
肉体表現がないぶん、若さゆえの未熟さが露呈するものだ。
（↑おお、なんかガンダムのセリフみたいなこと言ってるぞ。オレ）
いや、よく見ると若い人ばかりじゃなさそうだけど・・・
しかし後半の演目「パンドラの箱」でちょっと雰囲気が変わる。
ここでEbiちゃんがマイクの前に立った！ 「ここから出してよ～」
箱の中から聴こえる声。 だめだ、開けてはいかんっちゅうのに！
「ぶわっはっはっはっは・・・」 予想通り、いや予想以上だ。
彼女は身を大きく反らせマイクとの距離をとったが、声の大きさの問題じゃない。
コワい。背筋がゾッとした。しかしこの瞬間、来た甲斐があったと思ったのも事実。
「出もどりで～す」と一言あった今年の年賀状は住所が実家に戻っていた。
様々な苦悩があったに違いない彼女が、今、苦悩そのものを演じている。
終わってからちょっとだけ話ができた。誰がどうしたといった他愛もない雑談。
あの男の話はその雑談の中ではるか遠まわしの彼方にあった。話したいけど、今はこれだけで・・・って感じ。でも、それでいい。
「アイツだけはやめとけ。」・・・１０年以上前にそう忠告している。私も今更蒸し返すつもりはない。
彼女にはずっとコワい人でいて欲しい。悟った姉ちゃんであって欲しい。
「しっかりしなきゃダメよ。」…会うたびいつも、そう言われたような気持ちにさせるイイ女である。
